ラムダ文学賞最終候補作品が発表されました!
ラムダ文学賞(Lambda Literary Awards)は「ラミー賞」とも呼ばれ、現在の社会を形成するのに大きな役割を果たしているLGBTQ著者の功績をたたえるべく、すぐれた文学作品に贈られる文学賞です。
わたしの訳書に関係あるところでは、『イエルバブエナ』著者ニナ・ラクールさんの児童作品『The Apartment House on Poppy Hill』がノミネートされています。本作は、ポピーヒルのアパートに住む9歳のエラが主人公。彼女は母親のレズビアンカップルと暮らしています。アパートの住人たちとのできごとを描くようですが、読者レビューを読むと「ネタバレしたくないから内容は書かないけど、とにかくハッピーになりたいときに何度でも読みたい本」というようなコメントが多く、子供への読み聞かせにも向いているようです。生徒のために朗読しているという先生のコメントもありました。さっそく取り寄せたので、わたしも子供たちに読み聞かせようと思います。
その他の最終候補作品でわたしが気になっていたものをご紹介。全部ちゃんと紹介したいのですが、現在ゲラと訳出が重なっているスケジュールで、かなりきついので、絶対に外せない2作品を中心にご紹介します。
※気になる作品があれば、リーディング承りますのでお声がけください。
『Xの伝記』キャサリン・レイシー著
Biography of X // Catherine Lacey (Farrar, Straus and Giroux)
レズビアンフィクション部門最終候補。キャサリン・レイシーといえば、井上里さん訳の『ピュウ』(岩波書店)が記憶に新しい。『ピュウ』の原書刊行からおよそ十年後に刊行された作品がこの『Xの伝記』。オフィスで突然死したアーティストX。伝統的な考えを破壊するアーティスト、ライターだったXだが、その多くは謎に包まれていた。寡婦CMが、今は亡き妻Xの伝記を書くことを決意し、その過程で様々な欺瞞、裏切り、秘密が明かになっていく。第二次世界大戦後に分離された北米やヨーロッパの地域の史実も追うらしく、しかもデイビッド・ボウイやトム・ウェイツも登場し、ノンフィクションとフィクションが混ざり合う作品。各誌から絶賛されている。
『ブラックアウツ』ジャスティン・トレス著 Blackouts // Justin Torres (Farrar, Straus and Giroux)
(※タイトル注 停電、記憶喪失、目の前が真っ暗になること、黒塗りなどの意味がある「ブラックアウト」の複数形)
ゲイフィクション部門の最終候補作。全米図書賞受賞。「過去は私たちとともにある。隣にいる。目の前にいる。その隙間と消去からわたしたちは何を創り出すのだろう?」という紹介文に惹かれた。「物語ること」についての作品で、物語は実在する書籍「Sex Variants: A Study of Homosexual Patterns」とその苦痛に満ちた歴史を核に進んでいく。今にも息絶えそうなジュアン・ゲイという語り手を、砂漠にある「宮殿」で青年が世話をしている、という設定。その語り手が、この書籍について語る。研究に貢献した女性ジャン・ゲイの功績も名前も消去されたというのだ。そして彼女がインタビューしたクィアな人たちの声もフィルターにかけられ、消され、修正されたりした。ほぼ全ページが黒塗りされているこの本を、ジュアンは青年と読んでいく――。
その他にも……
バイセクシュアルフィクション部門
All-Night Pharmacy: A Novel // Ruth Madievsky (Catapult)
トランスジェンダーノンフィクション部門
Miss Major Speaks: Conversations with a Black Trans Revolutionary // Miss Major and Toshio Meronek (Verso)
サイエンスフィクション部門
I Keep My Exoskeletons to Myself: A Novel // Marisa Crane (Catapult)
コミック部門
Roaming // Jillian Tamaki, Mariko Tamaki (Drawn & Quarterly)
など面白そうな作品がたくさん! 詩部門もあるのですが、詩集ばっかりは読んでみないと分からないので、また別の機会に書きたいです。
学術書は、タイトルを見るだけでドキドキするのでみなさんもどうぞ!
Ambivalent Affinities: A Political History of Blackness and Homosexuality after World War II// Jennifer Dominique Jones (University of North Carolina Press)
Care without Pathology: How Trans- Health Activists Are Changing Medicine // Christoph Hanssmann (University of Minnesota Press)
Queer Career: Sexuality and Work in Modern America // Margot Canaday (Princeton University Press)
Sexuality and the Rise of China: The Post-1990s Gay Generation in Hong Kong, Taiwan, and Mainland China // Travis S. K. Kong (Duke University Press)
The Sexual Politics of Empire: Postcolonial Homophobia in Haiti // Erin L. Durban (University of Illinois Press)
表彰式は6月11日です!
訳書に関することで……
舞台『The Pull of the Stars』(原作 エマ・ドナヒュー、拙訳書『星のせいにして』)の上演が始まりました!かなり好評のようです。キャストインタビューなどもいろいろ出ています。リン先生やジュリア、ブライディ、みなさんのイメージと同じでしょうか?
☆今週は香港国際文学節のディレクターとミーティングをする予定です。どんなお話が伺えるか、とても楽しみ! 日常のブログはこちらで更新中です。