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いくつかの作品を訳了した先週は、息抜きにアリス・ネルソンの短編「Titee.」を訳しました。
アリス・ダンバー・ネルソン
アリス・ネルソンはハーレム・ルネッサンスの作家で、1875年ニューオリンズ生まれ。母親は元奴隷で、父親の出自については諸説あるようです。彼女は現在のディラード大学の前身であるストレート大学に進学しました。女性で、しかも奴隷の子供としては当時かなり珍しいケースだったようです。
大学時代から書き始め、さいしょ彼女の作品は「黒人女性」の作品として受け止められました。しかし、彼女はクレオール、ネイティブアメリカン、アングロサクソン、アフリカ系アメリカ人などのルーツを持つ作家です。詩や短編を出版し、人種主義、圧政、ジェンダー規範による困難や結婚制度について疑問を投げかけました。ダンバーは生涯で三人の男性と結婚しましたが、同時に複数の女性とも親密な関係を結びました。1910年代から彼女は女性参政権運動に熱心に参加し、反リンチ法の成立にも尽力しました。1920年ごろから彼女はジャーナリズムに転向し、人権活動の内容や訴えを記事や、エッセイで発表しました。
生前、彼女の作品は出版されることがほぼなかったそうですが、死後、彼女の作品への評価は高まっています。
なぜ訳しているのか
わたしは作品を理解したいとき、翻訳するようにしています。さっと読んでしまうと、どうしても読み飛ばしや、都合のいい解釈が起こってしまい、ちゃんとテキストに向き合っていない気がするからです。彼女のことを知ったのは、『パッシング』(ネラ・ラーソン著)の参考文献としてあげられていたからです。並行して、ブリット・ベネットの『ひとりの双子』と現代思想の『インターセクショナリティ』を読みました。どちらにも新田啓子さんの文章が掲載されていますが、「インターセクショナリティ」という言葉を考えるときに、ブラックフェミニズムを考えたくなり、あわせてアリス・ネルソンも読みたくなりました。
ほんとうは今日の投稿で短編「Titee.」の訳文を掲載したかったのですが、自分の中で解釈しきれていない部分があるので、来週公開したいと思います。それか、不完全な訳文を公開して、読んでいる人といっしょに考える、というのもいいのかもしれない。解釈しきれていないというのは、主人公の名前なんです。いくつか呼び名があるんだけど、それが何でかよく分からない。この作家の作品は、著作権は切れているので、原文で自由に読めます。興味のある方はここからどうぞ。
ほんとうはもうちょっと書きたいのですが、香港ゆきの航空券をとって、いよいよ引っ越し準備をしないといけないので、今日はこのへんにしておきます。
日本からは暑さと雨のニュースが交互に入ってくるような気がしますが、どうかみなさんご自愛ください。エドモントンはまた山火事の煙で、外に出られない日々が続いています。エドモントンから書くのもあと3週間くらい。そのあとは香港から、書き続けますのでどうぞよろしくお願いいたします。