今週は少し遅れての配信になってしまいました。
今わたしは、カナダ東海岸ノバスコシア州にいます。『赤毛のアン』のアンの孤児院があったとされる場所です。昨日到着しました。航空会社ウェストジェットのパイロットたちが労働条件の交渉の最後の切り札、ストライキを決行するかもしれない山場を迎えていて、飛行機が飛ぶのかどうか前日まで分かりませんでした。前日の真夜中にストライキ回避の連絡があり、無事にノバスコシアへ飛ぶことができました。
この地域には、わたしの義母が住んでいます。わたしにとっては、カナダのふるさとのような場所で、海沿いの小さな町につくと、心も体も緊張感から解放されるみたい。空港を一歩出ると、ひんやりとしめった風に甘い潮の匂いがします。エドモントンは山火事のため外に出るのが危険なくらい煙たかったので、久しぶりに新鮮な空気がすえて気持ち良かった。
義母の本棚をみるのがわたしは大好きで、今回の滞在でさいしょに言葉を交わしたのも、本についてでした。ウクライナ作家アンドレイ・クルコフの「グレイ・ビー」という小説です。ロシアのウクライナへの侵攻がはじまったときにわたしも読み始めたのですが、義母も同じタイミングで読み始めたらしく、この小説を英語に訳した翻訳者ボリス・ドラリュックさんと少しお話したことがある(SNS)とか、ボリスさんはオルガ・トカルチュクさん(義母と私が好きな作家)の翻訳者ジェニファー・クロフトさんのパートナーなんだよとかそういう話になりました。アンドレイ・クルコフさんはすでに日本でも紹介されている作家なので、きっと本作も近いうちに紹介されるのではないかと思います。
ゆっくり海沿いを散策したいのですが、子供たちとマイケルが体調を崩してしまい、看病の数日間になりそうです。だけどその分、義母から家族の話をいろいろ聞き出せるのでわたしはけっこううれしい。スペイン風邪に親類全員がり患したけど、全員生き残った話や、造船で栄えた村で一族が暮らしていてそれがどう離散したかとか、相続した家をめぐるごたごたなど、(不謹慎だが)めちゃめちゃ興味あります。
義父のほうはファミリーヒストリーが濃すぎて、どこからどう書けばいいのか分からないんですよね。もともとを辿ると、サラエボ事件に関係している人にぶち当たるらしいし、その前にはホロコーストの被害者もおそらく加害者もいて、詳細には語りたがらない人が多い。義父はもともとドイツ出身なので、第二次世界大戦の話はとくにかなりデリケートな感じになります。
義母のほうは英国から、アメリカのボストンエリアに入植し、英国側についてカナダに渡ったところからノバスコシア州での歴史がはじまるので、「ファミリーヒストリー」としての記憶が比較的短くて新しい、というのもあるのかもしれない。今回の滞在でもいろんな話を聞けるのを楽しみにしています。
わたしはこの世界で住むところをひとつ選べるのなら、絶対にノバスコシア州に住みたいです。ただ、仕事がないのと(マイケルの)医師不足が深刻すぎて現実的な選択にはならないのが悲しいのですが……。
来週はもう少し写真などを交えてノバスコシア州をご紹介できればと思います。
それではまた!
クルコフは『ペンギンの憂鬱』くらいしか翻訳されてないはずなので、新作も期待しちゃいますね......