釜山に行きました。香港で出会ったソウルメイトと呼んでもいいかもしれないくらいめちゃめちゃ波長が合う友達がいるのだけれど、彼女がふるさとにいっしょに行きたいと誘ってくれたので、いっしょに行ってきた。いろいろなところに引っ越しながら生きるのは不安定だし、お別れがすごくつらいけど、大人になっても友達ができ続けるというのはすごくいい点だと思う。彼女は、わたしのピラティスの先生で、ついでに最近は韓国語や韓国料理の先生でもある。趣味も興味も全然違うけど、どうしてかいっしょにいてすごく楽なので、お互い、パートナー不在の夜などはどちらかの家に集まってJINROを飲みながら焼肉などしている。
韓国に行くのは人生で2回目。1回目は中学の修学旅行だった。そのときの先生たちが「政治でどれだけ二国間の関係が冷え切り、大人たちが偏見や差別をうえつけても、君たちはちゃんと歴史を学び、人と人との関係を築き、自分で考えていかないといけない。だから今、韓国に君たちを連れていきたい」と言って、中学3年生を全員、韓国へ連れて行った。そのとき暗記した「アリラン」はまだ歌えるし、韓国語で簡単な自己紹介ができるようになったのもこのとき。
わたしの祖母は、韓国で生まれ日本の敗戦まで韓国で育った。ソウルの日本料理屋さんを経営していたそうだけど、そのときのことはあまり話したがらなかった。だけどときどき、祖母は韓国語を話した。わたしが修学旅行で韓国に行くというと、複雑な表情を浮かべて、それから数日後に「あたしもいきたかばってんね」と言った。あのときのわたしは、「ばってんね」のあとに何がくるのか尋ねなかったのだけれど、あのとき彼女にもっと話を聞いておけばよかったとそれから何度も思った。その2年後に、祖母は他界した。
友達にはわたしの家族が韓国にいたことを話している。彼女はうなずいて、何も言わなかった。それから、わたしのふるさとにいる大好きな鳥、カチガラス(マグパイ)にも豊臣秀吉の朝鮮侵略がかかわっていることも話した。彼女の出身の釜山の南の地方には、たくさんの日本語っぽい表現が残っているそうで、ときどきふたりで淡々とそういう話をし合うときがある。
釜山ではとにかく食べた。わたしはゴマの葉とキムチと豚肉の組み合わせが大好きなのだけれど、今回は豚肉でなく、刺身もゴマの葉とキムチに合うことを学び、ほんとうにいろいろなものを食べて歩いた。友人の古くからの親友が車でいろんなレストランに連れて行ってくれて、韓国語で頭をぐるぐるさせながら、味蕾をフル稼働させてさまざまな情報をキャッチする3日間はおいしすぎて、楽しすぎた。なぜかバレエ教室にも飛び入り参加し、韓国語で未知な芸術バレエを学ぶというよくわからない状況に自分でも笑ってしまった。人生ではじめて、トーシューズをはいた。
開脚なんて全然できないし、足の裏がつってくるし、さんざんだったけれど「新しいことに挑戦する勇気が美しい」と先生がほめて(?)くれて、まあそういう感じでいいや、ということでまた焼肉を食べに行った。
子供が生まれてから、ひとりで旅行することは何度かあったけど、ママ友と飛行機で旅行するのははじめてだ。友達は子供といっしょだったのだけれど、旅の2日目は子供の誕生日だったのでいっしょにビーチで貝殻拾いをして、かき氷でお祝いした。彼女の子はいつもわたしを「いくみー!」と半ば叫ぶように呼ぶ。とても元気で、アイドルポップシンガーになりたくて、かなり頻繁に「ワーオ、ソー、ビューティホー!アメイジング!!!」と熱狂している。シャワーの後に、わたしの髪をとかしてくれたときも、同じようにほめてくれて、めちゃめちゃいい気分だった。大きい声でほめてもらえると、なんか何倍もうれしいことに気づいたので、家に帰ってからさっそく、こどもたちにも「ワーオ、ソー、ビューティホー!」と言ってみたら、すぐにあの子の真似をしているのがばれた。
それからはずっとゲラをしてる。8月に早川書房のポケミスで刊行されるアンジェライン・ブーリー著『真実に捧げる祈り』のゲラだ。原題は「Firekeeper’s Daughter」。先住民コミュニティをむしばむ覚せい剤の闇をめぐるミステリで、先住民女性の怒りや悲しみ、喜びがこれでもかってくらい思い切り描かれているので、ぜひぜひ読んでほしい。原書はYAジャンルで刊行された作品で、多くの賞を受賞し、映像化も決定している
ただ2段組みで600ページくらいあって、お値段が3700円前後なのでどのくらいの読者に届くのか、複雑な気持ちではあります。
仕事でもいろいろなことがあるしニュースは開くだけで落ち込むけれど、ワーオ、ソー、ビューティホー!!!っていう瞬間も大事にしていくぜ。