ミニバスに揺られ(冗談抜きでめちゃめちゃ揺れる)砂浜へ。家の近くにも海はあるけど、砂浜のビーチはないので、砂浜からのぼることができる「ドラゴンズ・バック」というハイキングトレイルに行った。久しぶりの砂浜、気持ちよかった。
トレイル自体はきれいに舗装された階段が続き、かなり膝にくるけどそこまできつくないコース。途中の休憩所で男性ふたりと小さな子供が座っていて、ふたりがわたしの方を見て「ヤップンヤン」と言っているのが聞こえた。ああ、日本人だって話しているんだなと分かったので、あいさつすると、広東語で話してくれ、はじめてお店の人以外と広東語で会話した気がした。缶ビールをくれて、「かんぶい(乾杯」。ついでにおつまみのフィッシュボールもシュウマイもくれた。
わたしの広東語はまだまだだけど、最近積極的に話しかけられるようになってきて、最初のハードルをクリアしたかなと思う。男性たちは、毎週ビーチに泳ぎに行くそうだ。短いパーティーだったけど、お別れのときは「もう友達だね、ぼくたち!」と握手をして去っていった。香港に来てちょうど3カ月が経ち、ご褒美をもらったみたいでうれしかった。
佐賀から香港に帰ってきて、走っている。週に3回、3キロから5キロを30分くらいで走る。日曜日は1時間くらいかけて8キロくらいかな。だけどわたしの「走る」のは途中でけっこう足を止める。ひとりでおいしそうにバナナを頬張る人や、釣りをしている人、不思議な歌を歌っている人、太極拳をしている人。人を見るのが面白くて、立ち止まって観察する。香港はほんとうに運動する人が多いし、そのスタイルも種類もさまざまだから、へんに自意識過剰になることなく、人と自分をくらべることもなく、自分なりの運動がしやすい。ウェアもばらばらだし(なんなら上半身はだかの人もいるし)ペースも年齢もばらばら。
それから、鳥や魚、木々や花にも足を止める。なので、ランニングとして効果的かと言われると疑問だけど、すごく楽しく走っている。走らない日はゆっくり歩いている。一眼レフカメラを今週から携帯しようと思う。
そして先週は久しぶりに詩の世界に戻った。やっと本を喜びをもって開くことができるところまで来た。人生初の「本恐怖症」みたいになっていたから、抜け方がわからず試行錯誤したけれど、しばらく違う種類の翻訳に取り組み、走ることや食べること眠ることなどに気を配り、ネットの世界から離れたら、整ってきた。
そして落ち着いてから今年のスケジュール帳を見返してみると、マイケルの看病手術と大きな引っ越しがあるのに、これまでにない量の翻訳の受注があり、すごく忙しかったのだと気づき、ちょっと燃え尽き症候群だったのかもしれないと(今さら)気づく。いや、ほんとにすごい量の労働をしたよね、今年……。しかも家事や看病は無償労働だし、翻訳の印税収入は労働と収入の時差が大きいので、成果が見えにくく、ついつい頑張りすぎちゃう気がする。
詩がしみこむような感覚がこんなにうれしいなんて。
今読んでいるのは、ミナ・ロイの詩集(画集/写真集)。
広東語の学校も再開するし、また新しい気持ちで翻訳に、物語に、言語に向かいます。