香港に来てもうすぐ3年
three years
ブックフェアに出店が決まっていた老舗の書店2店舗が、ブックフェア開催日直前で出店禁止になり(理由は明らかにされていないが台湾の書籍を多く扱っているからだろうと出版関係者は話している)、フェア用に入荷した大量の書籍に埋もれそうになっていると友人から聞いた。
仕事終わりに彼女と一緒に書店へと出向く。香港あるあるなのだけれど、書店など絶対なさそうなボロボロの商業ビルの狭い階段を登っていくと、小さな事務所のようなドアにたどり着いた。「45パーセントオフ、創業48年記念セール」という貼り紙がでかでかとある。これがなかったら、絶対書店だとは気づかなかっただろう。
中に入ると、身動きできないくらいの多くの客だ。友人と顔を見合わせる。書店にこんなに人がいる光景なんて、見たことがない。みんな噂を聞きつけて、サポートするために集まったんだ。それぞれが本数冊を手に、レジに並び、店主は忙しそうにレジ打ちをしている。他のスタッフが重そうな箱を抱えて何度も店内に入り、棚に次々と書籍を並べていく。店内の書籍は全て中国語の本で、私は中文はスラスラ読めるレベルじゃないけれど、「こちらあみ子」と「ふたつの夏」の翻訳を見つけたので、「両文港語」という香港の言語表示についての雑誌と一緒に購入した。日本語版を持っているから、比べて読めるので勉強になると思ったのだ。店を出るとき、「まだまだ本が来るから、またぜひ来てね」と店主から声をかけられた。
ブックフェアへの出禁をくらった書店の一つは、閉店を決めたと聞く。一緒に書店に行った友人も書店主なのだけど、彼女は「ブックフェアは今の書店にとっては本当に大きな収入源なのに、ひどすぎる」と憤っていた。
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最近、フルタイムの仕事に慣れてきて余裕が出てきたからか、色々とやりたいことが増えてきて、彼女とまた新しいことをしようと話している。
色々な規制やAIなどでコミュニケーションや創作の場やプロセスが変わっていく中で、私と彼女が共通して信じているのは、一緒に作ること、そのプロセスと時間に意味があり、エンドプロダクト(結果)がどのように発表され流通され消費され利用されようとも、それを作るプロセスが残す「残らない」痕跡の価値は絶対に変わらないということだ。それは「翻訳」にも私が強く感じること。翻訳に没頭したあのプロセス、時間、体の感覚は自分の中に生きて絶対になくならない。
だから手を動かし、足を動かし、実際に集まって、作ることを、誰に見せなくても、見られなくても、知られなくても、続けていきたい。セラミックアーティストでもある彼女とは、そういう思いを共有している。私が作るものを、彼女は知っている。そして私は彼女の作品が大好きだ。彼女とは頻繁に会えるわけではないのだけれど、月一くらいの頻度で「ねえ、何作ってる?私が手伝えることない?たりないものない?困ってることない?」と声をかけてくれる。一人で作る。二人で作る。空間を共にしてもしなくても、そのプロセスを支え合える関係を広げていきたい。そういう場を一緒に作れたらいいね、と話しながら一緒に夕食を食べる時間がしあわせ。
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最近暑すぎて、釣りに行けていない。それは私だけではないらしい。仕事帰りの地下鉄で、なんだか見たことがあるおじさんがこちらを見て微笑んでいる。ああ、いつもの釣り場で時々一緒にいる明おじいちゃんだ。花おじいちゃんとの釣りについてはこちらのエッセイで書いているけれど、花おじいちゃんと釣りを始めてから、釣り人の知り合いがとても増えた。ウニを潜ってとりにいくおじさんや、絶対に喋らなけれど毎度餌をくれるお兄さん。朝走るとき、手を振って挨拶する。明おじいちゃんは、朝釣りでいつも出くわす。釣りをしている時はみんな、日に焼けないようにつばの大きな帽子をかぶってるし、汚れてもいい格好をしているから、普段着で遭遇すると一瞬誰だかわからないことが多い。
「さいきん釣りしてる?」おじさんとの世間話が始まる。おじちゃんも長い間、行けてないらしい。おじちゃんと話しながら、世間話に困らないくらいは、広東語は上達したなとちょっとうれしくなった。釣り場で会うと、釣りの話しかしないけど、地下鉄で一緒に座っていると、孫や腕時計の話をしてくれてなんだか新鮮だ。いろいろ話していたら、釣りは暑くてあんまり会えないから今度卓球を一緒にしよう、と誘われた。週3回、卓球クラブやってるらしい。なんだかよくわからないけど、今後顔を出してみる。
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フルタイムの合間に、フリーランスの仕事もしているのだけれど、今はカナダの映画監督とプロジェクトの立ち上げ段階の仕事をしている。もともとトロントに住んでいたときは映画の仕事をしていたので、ちょっと昔に帰ったみたいで懐かしい。再来週からカナダに数週間帰る。今年は自分のこれからをしっかりと考える、と決めた時間なので、このタイミングでカナダでまとまった時間を過ごせるのは本当にありがたい。カナダに戻るのは、香港に越してきてからはじめてだ。カルガリー、ノバスコシア、オンタリオに滞在予定。
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香港に来てもうすぐ3年だ。本当にやさしいたくさんの人に支えられて、学び、作り、考えて、釣って、走って、書いて、愛して、翻訳して、日々を暮らして、新しい世界がぐんと広がった時間だった。3年前の自分に、今の私のことを話したらびっくりして、誇らしく思ってくれると思う。香港でのこの3年間は、自分の人生でもかなり濃くて価値観をガラリと変えられ、自分の芯が太くなった時間だった。みんなのおかげ。本当にありがとう。



香港の、古い商業ビルの階段を上がった先に急に別世界がある感じを思い出しました。会社員時代に何度か出張で行っただけですが、あの街の密度は体に残ります。
書店の話、創作の話、釣り場のおじいちゃんの話が全部つながっていて、3年という時間がちゃんと手に取れる文章でした。また香港に行きたくなりました。