実家の母が入院し、身の回りのお世話のために少しのあいだ、帰省することになった。実は先月も数日間、帰っていた。その前にカナダから義父が遊びにくる。明日到着予定で、けっこうバタバタしている。周りがバタバタし出すと、仕事もバタバタし出す。
今は短編小説のゲラをしているのだけれど、ずっとゲラを待っていた長編小説のゲラも今月始まることになった。こちらは初の「ミステリー」ジャンルで刊行する方針らしく、なんだかドキドキしている。アメリカ大陸先住民アニシナベ族の女子高生が主人公で、彼女をふくめ、強い女性ばかりで大好きな登場人物がたくさんなので、ゲラで再会するのが楽しみすぎる。そして久しぶりに持ち込みもした。YA作品なのだけれど版権を調べてもらったら、すでに刊行が決まっていた。絵本も数作品、提案したのでこれからも地道に続けていく。
そういえば、先日NHK出版の「本がひらく」掲載『とりあえずお湯を沸かせ』で柚木麻子さんが香港滞在のときのことを綴っていた(「ミルクティーを通して世界を見る――料理と食を通して日常を考察するエッセイ」)。わたしもちょこっと登場する。このときに柚木さんといっしょに行ったカートヌードルのお店がすごくおいしかったと投稿で書いたのだけれど、一週間前に一帯の都市開発のために強制立ち退きを迫られ、閉店したそうだ。ここ数年ずっと、ここにあった集落はじわじわプレッシャーをかけられて縮小させられてきて、あのお店が最後だったのだと広東語の先生が教えてくれた。「だから育未に行ってほしかったんだよ。昔からの風景が消えてしまう前に、行ってほしかったから」と彼が言って、寂しそうな顔をするので、なんだかますます悲しくなった。あのヌードルはもう食べれないし、ショートカットの黒縁眼鏡のお姉さんがタバコをぷかぷかしながら「何にする?」って聞いてくれる経験ももうできない。あの人、どこにいるんだろう。また会えるかな。また会いたいなあ。結局マイケルも連れていけなかったけど、柚木さんと行けてよかった。一生忘れない。
先々週末はビーチに子供たちを連れていった。ビーチでうちの子たちは、「ビーチコマー」になる。波が連れてきてくれたものを拾うのだ。シーグラスと陶器の破片がお目当てで、カナダではみんなが競争するように拾っていくので見つけるのがすごく大変なんだけど、香港ではほぼ「ゴミ」扱いなので、めちゃめちゃある。子供たちは波によって角が丸く削られたガラスの破片を拾い、宝物のようにガラス瓶に入れる。ひとつひとつ、もともとはどんなガラスの容器で(もしくは窓やライトで)、どこから来たのか考えるのが好きなんだって。そういう話を聞いている時間が、わたしはいちばんしあわせ。
それから釣りにも連れていった。4匹も釣れた。3匹はアイゴで、4匹目はウマヅラハギだった。横にいた釣り人のおじちゃんから「これ家で食べるの?」と聞かれ、「いや、海に放そうと思ってたけど」と答えると「おいしいのにもったいないよ」と言われた。じゃああげます、と言うと、おじちゃんめちゃめちゃうれしそうだった。今度釣れたら自分で調理してみようかな。魚屋さんでもっと大きいのを買ってみようかな。最近の釣りは、子供よりわたしが楽しんでいる。Youtubeで勉強している。
先週末は山に登った。山に登る気持ちはなかったのだけれど、スマホを持たずに山の近くのカフェにいき、ぐだぐだしてから帰ろうとしたら、マイケルが違う道から帰ろうと言い出した。わたしはスマホを持っていないので、マイケルが案内してねーと言ったら、奴はなんと5時間の山道ハイキングにわたしたちを連れ出しやがったのだ。びつくりだよ!15キロ歩いた6歳児と9歳児がいちばんえらかった。なんだかんだ楽しかったけど、適当にしか地図を読まない人に道案内は任せてはいけないことと、やっぱりスマホは持ってお出かけしようと思った。
ちなみに毎週土曜日は、マイケルとわたしはデートをする日と決めている。午前中は子供たちの習い事にそれぞれが付き添い、ランチから夕飯前まではふたりで出かける。だいたいランチを食べてぶらぶらして、写真を撮ったり書店をめぐったり。付き合い始めてから16年くらいがたったけど、話すことは尽きず、日々、わたしはこの人のこと全然知らないなあ、面白いなあ、それからこんなにたくさん愛してもらってるなあと実感している。たくさん動き回ったから失ったり得られないものもあるのかもしれないけれど、ふたりのこの関係は何ものにもかえがたい。
毎日のなんでもないような小さなことが、いちばんうれしい。