みなさん、こんばんは。
このニュースレターの更新は基本的に月曜日朝8時なのですが(と昨日決めました)、本の話がしたくなったので書いています。
そもそもわたしが文芸翻訳をするようになったのは、カナダに住んでいたときに(2011年から2020年)日本に住んでいる人にも紹介したいなあ、と思う作品が山ほどあったからなのです。企画を持ち込んで翻訳刊行にいたったデビュー作が、カナダ在住アイルランド人作家エマ・ドナヒューの『星のせいにして』です。未読の人はぜひ、読んでみてください。
きょうご紹介したいのは、The Sleeping Car Porterという作品。今年度のギラー賞を受賞しました。著者のスゼット・マイヤーさんは、これまで4作の小説を発表。わたしはまだ1作品も読んだことがありません。カルガリー大学の英文学の教授でもあるそうです。これまでにもいくつもの文学賞にノミネートされています。
さて、今回ギラー賞受賞が決まったThe Sleeping Car Porter。まずはタイトルが面白い。はじめに見たとき思い浮かべたのは、The Sleeping Beauty、つまり眠り姫(「眠れる森の美女」)。だから、「眠れるポーター」なのかと思ったのですが、本作の場合は”The Sleeping Car(寝台車)”で区切る。つまり、寝台車で働く”porter”の話なのです。”Porter”はランダムハウス辞書によると「((米・カナダ)) (特別客車・寝台車・食堂車の)ボーイ」。
なので、中身を読まずにそのままタイトルを訳すとしたら、
「寝台車のボーイ」
ですね。もし翻訳刊行する場合は、ちがう邦題が必要な気がするな……。
舞台は1928年カナダ。カナダを東から西へ横断する列車の寝台車でボーイとして働く、クィアで黒人のバクスター(なぜかジョージと呼ばれている)が主人公です。歯科学校に行くための資金を貯めるために、差別されても懸命に働いています。しかし、西部へ向かう汽車が2日間足止めされたとき、乗客たちの本性、秘密が見え始め、ある事件をきっかけにバクスターは解雇されてしまいます。西へ西へと進む列車でバクスターの夢は砕かれる。そんな中、大きな秘密がうごめき、物語はクライマックスへ。
多くの人は、カナダに対してとてもポジティブなイメージを抱いていると思います。この文章を読んでいる人もそうではないでしょうか? 理想的な国で、奴隷制度はなかったと信じる人が多いのですが、カナダにも奴隷制度はありました。現代でも、黒人差別は根強く残っています。この作品は、1928年にカナダの黒人に対する認識や差別がどうだったのか、黒人の主人公の語りで描き出します。同時に、クィアであることを隠して生きることについても。
カナダでクリスマス休暇中に読めたらいいな。読んだらまた感想を書きますね。
Have a good night!